平成30年3月9日
学長 塩田 浩平(しおた こうへい)

本日ここに、平成29年度第2回滋賀医科大学学位授与式を挙行できますことは、滋賀医科大学にとって大きな喜びであります。

このたび大学院博士課程を修了し博士の学位を取得された17名、論文審査に合格して博士学位を取得された3名、修士課程を修了し修士の学位を取得された10名の皆さん、おめでとうございます。これまで支援してこられましたご家族ならびに関係の皆様にもお慶びを申し上げます。また、研究を指導されてこられた指導教員や協力された同僚の先生方にも敬意を表します。

これまでに滋賀医科大学から学位を授与された方は、本日の皆さんを加えて、博士が1248名、修士が233名となりました。これまでに学位を取得された方々は、研究者として、あるいは指導的な医師・看護師として、それぞれの立場で活躍されており、我々が誇りとするところであります。

私は、皆さん全員の学位論文の要旨を読ませていただきました。全ての方が意欲的なテーマに取り組み、苦労して結果を出して論文にまとめられた努力の跡をよく感じ取ることができました。その中から何人かの方の研究をご紹介します。

先端医学研究者コースの福本大介さんは、本学の遺伝性不整脈のデータベースの中から、失神や突然死を起こす遺伝性疾患「先天性QT延長症候群」の患者のうち新規ミスセンス変異をもつ症例について機能解析を行い、KCNH2ミスセンス変異がKv11.1チャネルの細胞内輸送障害を起こし、これが本疾患の発症に関与していることを明らかにしました。

学際的医療人コースのLina Wati Binti Duraniさんは、脳内の代謝プロファイルの加齢変化をラットの行動解析とMRIによって調べ、加齢に伴う代謝プロファイルの変化が脳の部位によって異なることを明らかにしました。海馬においてglutathione, taurine, sphingolipid の代謝が、線条体ではプリン代謝が加齢と共に変化することから、こうした代謝の変化が、加齢に伴う感情や認知機能の障害に関連している可能性を示唆しました。

社会医学講座の藤吉奈央子さんは、NIPPONN DATA2010のデータを解析し、高コレステロール血症を未治療のまま放置するリスクが未婚男性で高く、健康状態に直結する生活習慣が婚姻状態や性差と関連していることを明らかにしました。

看護学修士の研究では、基礎看護学の庹進梅(トシンメイ)さんが、日本の病院で働く中国人看護師を半構成的面接法によりインタビューし、彼女らが文化の違いに関連する悩みや日本での生活からくる孤独感に悩んでいること、その一方で、困難な生活の中でもやりがいを見つけて努力していることを明らかにし、外国人看護師などに対する今後の支援のあり方に重要なヒントを与えました。

また、成人看護学部門の三宅さおりさんは、多数の健康診断のデータを解析し、男性の喫煙習慣が耐糖能障害発症のリスクファクターであることを明らかにしました。

以上、5人の方の研究を紹介しましたが、学位審査に合格された方は全て、困難な研究に取り組み、重要な成果を得て今日を迎えられたわけです。ぜひその業績を誇りにし、プロフェッショナルとしての今後の生活に活かしてください。皆さんは研究者としての生活を続けられる方と、医療・看護の臨床現場に戻られる方があると思いますが、臨床の現場にも解決すべき問題がたくさんあります。大学院時代に身につけたリサーチマインドを活かし、日々の仕事の中でも課題を見つけその解決に取り組んでいただきたいと思います。

医療・看護の領域において知識と技術の進歩は日進月歩であり、情報化が進み、人工知能(AI)やロボット技術が予想外の早さで医療の現場に入ってきています。こうした変革の時代に生きるのは大変なことですが、見方を変えれば、たいへん刺激的で面白い未来が待ち受けているということでもあります。皆さんが新しい医学・看護学の進歩の一翼を担い、それぞれの領域におけるリーダーとして存分に力を発揮されることを期待しています。

皆さんの今後のご活躍を心から願い、お祝いの言葉といたします。

本日はおめでとうございました。