piggyBacトランスポゾンシステムを介したトランスジェニック非ヒト霊長類の非ウイルス性作製

論文タイトル

Non-viral generation of transgenic non-human primates via the piggyBac transposon system

掲載誌

Nature Communications

DOI:10.1038/s41467-025-57365-w

執筆者

Masataka Nakaya, Chizuru Iwatani, Setsuko Tsukiyama-Fujii, Ai Mieda, Shoko Tarumoto, Taro Tsujimura, Takuya Yamamoto, Takafumi Ichikawa, Tomonori Nakamura, Ichiro Terakado, Ikuo Kawamoto, Takahiro Nakagawa, Iori Itagaki, Mitinori Saitou, Hideaki Tsuchiya and Tomoyuki Tsukiyama
(太字は本学の関係者)

論文概要

非ヒト霊長類において外来遺伝子を強制発現させたトランスジェニック(Tg)動物を作出する際、これまでは主にレンチウイルスベクター法が用いられてきました。しかし、この方法には、特別な施設や高度な技術が必要であること、胚移植前の遺伝子改変胚の選抜が難しいこと、導入できる遺伝子のサイズに上限があることなど、いくつかの課題がありました。
本研究では、これらの欠点を克服するため、ウイルスを使わずに遺伝子を導入できるpiggyBacトランスポゾン法を用い、非ヒト霊長類のトランスジェニック動物の作出を試みました。カニクイザルを対象に条件の最適化を重ね、新たな発生工学的手法を開発した結果、全身で蛍光タンパク質を発現する非ヒト霊長類を、非ウイルス性の遺伝子導入手法を用いて世界で初めて作り出すことに成功しました。
本研究により、非ヒト霊長類における実用的な非ウイルス性遺伝子導入法が確立されました。今後は、複数の遺伝子を同時に発現させたり、発現のタイミングや場所を精密に制御するなど、より高度で柔軟な遺伝子改変が可能になると考えられます。また、マウスなどの小型動物では再現できなかった様々な疾患の発症メカニズムの解明や治療法の研究を、より精密に進めることができ、非ヒト霊長類を活用した医学研究の新たな発展が期待されます。

図1
図1:本研究で作出した遺伝子導入トランスジェニック(Tg)カニクイザル。全身の遺伝子発現(膜局在型の赤色蛍光タンパク質、核局在型の緑色蛍光タンパク質)が確認された。
図2
図2:遺伝子導入(Tg)カニクイザルの各組織における遺伝子導入の確認(EGFP:緑色蛍光タンパク質、tdTomato:赤色蛍光タンパク質、beta globin:内在性コントロール、WT:野生型)と、どの染色体に遺伝子導入されたのかの解析
図3
図3:遺伝子導入(Tg)カニクイザルの各組織における導入遺伝子発現の拡大像。赤色蛍光タンパク質(membrane tdTomato)は膜局在型、緑色蛍光タンパク質(H2B-GFP)は核局在型を使用しており、確かに局所的な発現を確認した。スケールバー:20μm
図4
図4:遺伝子導入(Tg)カニクイザルの精巣における導入遺伝子発現の拡大像。生殖細胞特異的遺伝子(DDX4)を発現している矢印で示された生殖細胞においても導入遺伝子の発現を確認した。

文責

動物生命科学研究センター 築山 智之