Sci. Rep. 2017, 7 : 306 doi: 10.1038/s41598-017-00476-2.

コレステロールは胆汁酸に対するリン脂質の細胞保護作用を弱める

Cholesterol attenuates cytoprotective effects of phosphatidylcholine against bile salts

執筆者

Ikeda Y, Morita SY, Tomohiro T

概要

肝臓から分泌される胆汁に含まれる胆汁酸は、脂質やビタミンの腸管吸収促進や体内コレステロールの調節など様々な生理的役割を果たしている。胆汁酸には、細胞膜を崩壊させる強力な界面活性作用があるにもかかわらず、正常な肝細胞は胆汁酸による損傷を受けない。また、胆汁にはリン脂質(主にホスファチジルコリン)とコレステロールも含まれており、これらが胆汁酸の界面活性作用を弱め、肝細胞を胆汁酸から保護していると考えられていた。実際、何らかの異常により胆汁中のリン脂質が減少すると、胆汁酸が肝細胞を傷つけ、肝細胞壊死や重篤な胆汁鬱滞が生じることが知られている。しかし、どのようにして肝細胞が胆汁酸から保護されているのかについて、詳細な検討は行われていなかった。

今回、正常ヒト肝細胞ならびにヒト肝モデル細胞(HepG2細胞)を用いて、様々な胆汁酸の細胞に対する毒性を調べたところ、リン脂質(ホスファチジルコリン)は肝細胞に対する胆汁酸の毒性を抑えた。一方で、コレステロールは、胆汁酸に対するリン脂質の肝細胞保護作用を弱めることが示された。さらに、その仕組みについて詳細に検討を行ったところ、リン脂質は胆汁酸と混合した集合体(ミセル)を形成することで、胆汁酸の肝細胞への接触を防ぐが、コレステロールはリン脂質と胆汁酸の混合を妨げることで、胆汁酸の肝細胞への接触を増加させることが判明した。

このように、リン脂質は胆汁酸による肝細胞損傷を防ぐ働きをするが、コレステロールはそのリン脂質の働きを弱めることを新たに明らかにした。このことから、胆汁中のコレステロール増加は、胆汁酸による肝障害のリスクとなることが考えられる。

文責

薬剤部  森田 真也