平成28年10月3日
学長 塩田 浩平(しおた こうへい)

本日ここに、平成28年度第1回滋賀医科大学学位授与式を挙行できますことを心からうれしく思います。

このたび大学院博士課程を修了し博士の学位を取得される3名、論文提出と所定の審査に合格して博士の学位を取得される2名、修士課程を修了し修士の学位を取得される2名の皆様、おめでとうございます。今日までこれらの方々を支援してこられましたご家族ならびに関係の皆様にもお慶びを申し上げます。また、ここまで研究の指導に当ってこられた指導教員の先生方に敬意を表します。

これまでに滋賀医科大学から学位を授与された方は、本日の皆さんを加えて、博士が1187名、修士が211名となりました。これまでに学位を取得された方々は、研究者として、あるいは指導的な医師・看護師として、それぞれの立場で活躍しておられます。

修士課程を終えられた方は2年間、博士課程の方は4年間、それぞれ独自の研究テーマに取り組み、その成果を学位論文として完成されました。本日学位を受けられる方の中には、中国から留学して今日まで頑張られた楊銘春さんと白佳玉さんもおられます。私も博士と修士の学位論文発表会に出席させていただきましたが、それぞれの方が意欲的なテーマで研究に取り組まれたことがわかり、そこに至るまでの苦労も垣間みられて、感銘を受けました。皆さんはそれぞれの研究を完成させることにより医学と看護学の進歩に貢献されたわけでありますので、自らの研究成果を十分誇りにしてください。

今回学位を授与される皆さんは、このあと研究者として研究を続けられる方、臨床現場へ戻られる方など、様々であろうと思いますが、大学院時代に身につけた研究的態度と考え方は、医学・看護学のあらゆる分野で役に立つと思います。その意味で、今日の学位授与は、決して皆さんのゴールではなく、新たなスタートであります。これからは独立した医師、看護師、そして研究者として、それぞれの道で精進していただきたいと思います。


わが国は急速な少子高齢化が進行しており、2025年問題、2035年問題という言葉に象徴されるような人口構成の大きな転換期が待ち受けています。日本社会は、歴史上でかつてどの国も経験しなかった高齢化社会を迎えることになります。そのような時代には、医師、看護師などの役割も変化し、多様で複雑、そして高度になっていくと予想されます。 

他方、医学の進歩も目覚ましいものがあります。例えば、疫学研究やゲノム解析によって癌や非感染性疾患(生活習慣病)のリスクファクターが順次解明されていますが、このような研究が進展すると、個人の遺伝子やバイオマーカーを調べることによって冠動脈疾患、糖尿病、アルツハイマー病などの発症リスクを推定できるようになり、生活習慣の改善や医薬品によって病気の発症や重症化を予防する「先制医療」も現実のものになります。治療においても、肺がんなど一部の癌において、特定の抗がん剤の効果と患者の遺伝子型に密接な関連のあることがわかり、科学的な根拠に基づいた患者ごとの「個の医療」が現実におこなわれるようになっています。このような科学的な根拠とデータに基づいて行われる医療を「精密医療(precision medicine)」と言いますが、こうした精密医療が広まると、すべての医師・看護師がエビデンスに基づく科学的な医療を実践しなくてはなりません。どうか皆さんは、これからも大学院で身につけたリサーチマインドを忘れることなく、重要な課題をみつけてそれを解決するという科学的態度を日常診療や看護の現場においても発揮してください。

皆さんが、今後、指導的な医療人として活躍され、医学・医療の発展と人類の福祉向上のためにそれぞれの立場で貢献されることを心から祈念いたしまして、お祝いの言葉といたします。

本日はおめでとうございます。