神経発達障害関連因子によるニューロンのゲノムを保護する新規分子機構

論文タイトル

Strawberry notch 1 safeguards neuronal genome via regulation of Yeats4 expression

掲載誌

Cell Death Discovery

DOI:10.1038/s41420-025-02640-4

執筆者

Dai Ihara, Ayano Narumoto, Yukie Kande, Tomoki Hayashi, Yasuaki Ikuno, Manabu Shirai, Masaki Wakabayashi, Ryo Nitta, Hayato Naka-Kaneda & Yu Katsuyama
(太字は本学の関係者)

論文概要

私たちの脳を構成している神経細胞(ニューロン)は、出生時から生涯にわたり脳の機能を担います。一方でニューロンは酸素要求が高く、遺伝子発現の変化も活発であるため、これらのストレスによってDNAが損傷を受けやすいという性質を持ちます。しかし、長寿であるニューロンがDNAを保護する分子レベルの仕組みは解明されていませんでした。
本研究では、自閉症や統合失調症の患者で遺伝子変異が報告されているSBNO1の機能に着目しました。Sbno1を欠損させたマウスの大脳皮質では、DNAの二本鎖切断が顕著に増加し、その結果として多くのニューロンが細胞死を起こすことがわかりました。
網羅的遺伝子発現解析(RNA-seq)により、Sbno1欠損大脳皮質では、Yeats4という別の遺伝子の発現が低下していることが判明しました。Yeats4の機能を阻害すると、Sbno1欠損と同様にDNA損傷が誘導され、逆にSbno1欠損ニューロンにYeats4を過剰発現させると、DNA損傷は抑制されました。
これらの結果から、Sbno1がYeats4を介してニューロンのDNAを保護するという新たな分子機構が示されました。この発見は、神経細胞におけるDNA保護のメカニズムを明らかにしただけでなく、SBNO1が関わる神経発達障害発症の原因の理解にもつながる可能性があります。本研究は登録研究医コースの学生3名が参加し共著者となっています。

図
正常なニューロンではSbno1タンパク質がYeats4を含むニューロンのゲノム保護に働く遺伝子のプロモーターに結合し、発現したタンパク質群がニューロンの活動などによって生じたDNAの損傷を修復する。Sbno1が欠損したニューロンではYeats4を含むDNA修復に働く分子群の発現が減少し、損傷したDNAの修復が不十分になる。DNA損傷が閾値を超えるとニューロンの細胞死が起こる。SBNO1変異は神経発達障害と関連しており、遺伝子変異によるSBNO1機能低下がDNAを損傷させ、ニューロン機能の異常を生じると考えられる。

文責

解剖学講座(神経形態学部門) 勝山 裕