血管平滑筋のRhoAはMAP4K4の活性を制御して腹部大動脈瘤の発生を抑制する
論文タイトル
Vascular smooth muscle RhoA counteracts abdominal aortic aneurysm formation by modulating MAP4K4 activity
掲載誌
Communications Biology
DOI:10.1038/s42003-022-04042-z
執筆者
Md Rasel Molla, Akio Shimizu, Masahiro Komeno, Nor Idayu A. Rahman, Joanne Ern Chi Soh, Le Kim Chi Nguyen, Mahbubur Rahman Khan, Wondwossen Wale Tesega, Si Chen, Xiaoling Pang, Miki Tanaka-Okamoto, Noriyuki Takashima, Akira Sato, Tomoaki Suzuki, Hisakazu Ogita
(太字は本学の関係者)
論文概要
腹部大動脈瘤とはその名の通り、腹部を走行する大動脈が膨らんで瘤ができる病気ですが、いったん瘤が裂けてしまうと、救命は困難で非常に危険な病気です。一方、腹部大動脈瘤の発症メカニズムについては不明な点が多く残されています。
本研究では腹部大動脈瘤の手術をした患者さんのサンプルで、病変部位では健常部位と比べてRhoAの発現が低下していることを見出しました(図1)。このことが腹部大動脈瘤の発生に関係するかどうか調べるため、大動脈の主要な細胞である平滑筋細胞でRhoAの発現を欠失させた遺伝子改変マウスを作製しました。このマウスでは薬剤刺激により容易に腹部大動脈瘤が生じました(図2)。
薬剤刺激後、マウス大動脈を摘出して実験を行いました。その結果、RhoAが欠失したマウスの大動脈は引っ張り抗力に対して弱くなっており、さらに、マクロファージなどの炎症細胞が大動脈壁内に多く入り込んでいました(図3)。これらの影響によりRhoA欠失マウスの大動脈は脆くなっていると考えられました。
RhoA欠失マウスの大動脈を分子レベルで解析すると、組織の炎症などに関係する分子MAP4K4が過剰活性化(リン酸化)していることが分かりました(図4A)。このことは、腹部大動脈瘤の患者さんのサンプルでも認められました(図4B,C)。一方、MAP4K4の過剰活性化を抑制する化合物DMX-5804を投与すると、RhoA欠失マウスでも薬剤刺激による腹部大動脈瘤が生じにくくなりました。今回解明した腹部大動脈瘤発症の分子メカニズムの概略を図5に示します。
文責
生化学・分子生物学講座(分子病態生化学部門) 扇田 久和