胃食道接合部の解剖、病態生理および臨床的意義に関する京都国際コンセンサス報告書

論文タイトル

Kyoto international consensus report on anatomy, pathophysiology and clinical significance of the gastro-oesophageal junction

掲載誌

Gut

DOI:10.1136/gutjnl-2022-327281

執筆者

Sugano K, Spechler SJ, El-Omar EM, McColl KEL, Takubo K, Gotoda T, Fujishiro M, Iijima K, Inoue H, Kawai T, Kinoshita Y, Miwa H, Mukaisho KI, Murakami K, Seto Y, Tajiri H, Bhatia S, Choi MG, Fitzgerald RC, Fock KM, Goh KL, Ho KY, Mahachai V, O'Donovan M, Odze R, Peek R, Rugge M, Sharma P, Sollano JD, Vieth M, Wu J, Wu MS, Zou D, Kaminishi M, Malfertheiner P.
(太字は本学の関係者)

論文概要

胃食道接合部(GOJ)以外に発生する胃炎については広くコンセンサスが得られているものの、GOJの解剖学的な位置、生理機能やGOJに発生する疾患等についての世界的なコンセンサスは得られていません。そこで今回、消化器専門の内科医を中心に外科医と病理医が集まり1)GOJを定義するための指標、2)胃噴門型粘膜の発生と病態生理学的意義、3)胃食道接合部領域(GOJZ)の定義、4)GOJZに発生する化生、炎症および腫瘍の原因等、についてコンセンサスを得るため、京都で国際会議を開催しました。デルファイ法を用いて、80%以上の一致を目標とし、2回の投票と修正の結果、28個の臨床的質問についてコンセンサスが得られました。特に強調すべきは以下の4点です。1)GOJを識別する内視鏡的指標は日本で用いられている柵状血管の下端とする(図1)。2) バレット食道は扁平上皮に代わり、悪性化しやすい化生円柱上皮におおわれた粘膜と定義する(図2)。3)胃噴門腺は先天的に非常に短い距離で存在し、食道胃逆流によって口側に、ピロリ菌感染によって肛門側に延長する(図3)。4)GOJZをGOJの近位1cmと遠位1cmにまたがる領域として新しく定義する。今回得られたコンセンサスが今後の研究に役立つとともに、GOJZの複雑な病態生理の理解を促進し、GOJZに発生する疾患の予防法や治療法の確立に貢献することが期待されます。

図1
図1 胃食道接合部(GOJ)の指標
A:GOJに使用する指標のシェーマ。1)柵状血管、2)扁平上皮―円柱上皮接合線、3)胃粘膜ヒダの上端、4)胃の入口部,食道の左側にまたがるように位置する最も内側の筋束(内斜筋)、5)His角。
B:GOJの内視鏡像。柵状血管(細矢印。図1A-1に相当)、扁平上皮―円柱上皮接合線(矢頭。図1A-2の波線に相当)、胃粘膜ヒダの上端(太矢印。図1A-3に相当)を示します。健常者では、柵状血管の下端は、扁平上皮―円柱上皮接合線にほぼ一致し、胃粘膜ヒダの上端と密接に配列しています。

 

図2
図2  GOJの食道の組織学的特徴
食道特有の組織学的特徴として表層粘膜筋板(m)と深層粘膜筋板(M)からなる二重筋板、扁平上皮(S)、食道腺(ESG)につながる導管(D)が描出されています。よって、図の右側の杯細胞を含む化生円柱上皮で覆われた部分は、本来は胃粘膜ではなく食道粘膜であったと考えられ、バレット食道(BE)と診断されます。(この組織写真の写真は向所が提供しました。)

 

図3
図3  GOJZにおける円柱上皮化生形成の病態生理学的機序
GOJZの円柱上皮化には、胃酸過多による胃十二指腸逆流(I型)とピロリ菌感染による萎縮の進行による低胃酸症・無胃酸症(II型)の2つの独立したメカニズムが想定されます。さらにI型は、胃の萎縮を伴わないピロリ菌に感染していない患者の胃十二指腸逆流(Ia型)と、軽度の胃炎を伴うピロリ菌感染患者の胃十二指腸逆流(Ib型)に細分化されます。胃食道接合部で発生するニトロソ化ストレスや酸化ストレスも炎症の一因となる可能性があります。ピロリ菌感染患者では、胃食道接合部周辺の炎症は胃体部より強く、萎縮性変化や化生の原因となることがあります。黒い矢印は逆流(胃酸および胆汁酸)を示します。朱色の部分は、炎症および/または化生粘膜を示します。

文責

医学・看護学教育センター 向所 賢一