本日ここに、令和4年度滋賀医科大学卒業式ならびに第2回学位授与式を挙行できますことは、本学にとって大きな喜びであります。

本日、学士の学位を得て卒業される医学部医学科104名、医学部看護学科58名の皆さん、ご卒業おめでとうございます。6年間、または4年間の学業を終えて、この日を迎えられたことに心より敬意を表します。

これまで過去3年間は新型コロナウイルス感染症が蔓延する中、ご来賓やご家族に列席いただくことができず、簡素な式にせざるを得ませんでしたが、今年は多くの方々のご列席のもと、挙行できることを心から嬉しく思っております。ここに至ったのは、もとより皆さんの努力によるものでありますが、同時にこれまで皆さんを育て支えてくださったご家族の方々、そして皆さんを指導し励ましてこられた教職員や友人のおかげでもあります。そのことに、改めて感謝していただきたいと思います。

さて、新型コロナウイルス感染症の蔓延は、卒業される皆さんの学生生活を一変させました。当初は未知のウイルスによる感染症が世界中に猛威を振るう中、医療も混乱を極め、さまざまな行動制限がなされ私たちの生活も一変しました。このような状況下において、本学の対応として授業や課外活動を制限せざるを得ず、オンライン講義や見学型実習に切り替えるなどの対応を行ってまいりました。皆さんにとっては友人とも会えない時期が続いたこともあり、長い間不安の中で過ごされたのではないかと思います。しかし繰り返すコロナ禍で、徐々に普段の生活が戻りつつある中、同じ環境下で学ぶ友人と日々学業に励み、医学科の皆さんは臨床実習であるクリニカルクラークシップを行うとともに、共用試験CBTやOSCEなどさまざまな試験に合格され、この度立派に卒業されたことに敬意を表します。

看護学科の皆さんも多くの制約がある中、臨地実習や看護学研究に粘り強く取り組まれ、本日の卒業式に臨まれるまで成長されたことに敬意を表します。特に助産師課程の皆さんは、分娩介助実習において極めて厳しい環境の中で実習をやり遂げられました。このような厳しい状況における、皆さんの努力と経験は今後の人生において大きな糧となり、また医療者として感染症に対する知識と実践能力を育む機会があったことが、皆さんのアドバンテージになることを期待しております。

ところで、卒業を迎えた皆さんの今の思いはどのようなものでしょうか。本日は、皆さんが入学した年に思いを綴った「入学に際しての決意書」が返却される日でもありますが、おそらく入学の時の決意に恥じない成長をされ、この日を迎えられたことと思います。学長の私も入学時の決意書に目を通しておりますが、皆さんは入学時に将来はこのようにありたいという医療者像に思いをはせておられたと感じております。その中で、多くの学生の皆さんが描いている医療者の姿は、確かな知識と技術を身に着けること、そして患者さんと同じ目線で患者さんに寄り添うことができること、この2つを兼ね備えた医師と看護師の姿です。この医療者像は世代を超えて、また国を超えて、あるべき医師と看護師の基本形であると確信しておりますが、入学してからの学生生活の中で、皆さんはその思いを強められたのではないでしょうか。

ご承知のとおり、昨年は本学学生の不祥事による事件が発生しました。本学を含め、医療従事者を目指す学生には、特に社会からの大きな期待と同時に、厳しい目も注がれています。二度とこのようなことが起きないよう、これまで以上に教職員一丸となって再発防止に取り組んでおりますが、皆さんもこれからは社会人として現場に出ていかれる中で、常に相手の立場を尊重し思いやることを改めて肝に銘じてください。そして、患者さんに寄り添って頼りがいのある医療者となることを目指す純粋な心構えを、これからも決して忘れないでください。

ところで、国家試験を終えたばかりの皆さんは、医学と看護学の広い範囲における知識の量に関しては、先輩達も凌ぐほどの高いレベルにあります。しかし、これから皆さんが進んでいく専門領域においては入口の知識であり、各専門領域においてはまだまだ知らないことばかりです。例えば、医師の場合には、初期研修2年、専攻医研修が3年、そして大学院での研究や留学、あるいは診療をしながらでも疫学研究の基盤は身につけてほしいと思いますので、本当に頼りになる専門医になるには今後10年近くを要すると思います。4月から滋賀県で研修・勤務を始める方、県外で研修・勤務を始める方とさまざまですが、将来は色々な分野で滋賀県の医療に貢献してほしいと思っております。

次に、大学院医学系研究科博士課程医学専攻を修了し博士の学位を取得された24名、論文審査に合格して博士の学位を取得された4名、修士課程看護学専攻を修了し修士の学位を取得された7名の皆さん、おめでとうございます。皆さんはそれぞれの研究テーマを追求し、立派な論文にまとめられたわけですが、ここに至る道のりは必ずしも平坦ではなかったと思います。研究を続けていると予想外の困難に直面することがしばしばあります。しかし、そうした試練を乗り越えて研究を達成し、今日を迎えられました。そのことに大きな誇りを持ってください。なぜなら、皆さんの研究成果は世界の中で唯一無二のものであり、研究指導者の支援があったとはいえ、さまざまな医学や看護学の背景の中で、研究のテーマを自ら考え出し、自力で研究を遂行した経験は極めて大きなものです。今後の皆さんの研究の場においても、医療の現場においても、自分の力で、あるいは仲間と協力して困難を乗り越える大きな力となることでしょう。

今年の卒業アルバムのメッセージとして、私自身の医師及び研究者としての経験から「素直な心と批判的精神の両立」というメッセージを贈りました。常に若い世代の皆さんに伝えていることですが、素直な心は多くの新しいことを学んでいくうえで大切な心構えです。特に年齢を重ねるにつれて、人間の心は頑固になってくる傾向がありますので、ますます素直な心が重要になってきます。

一方で、これから学ぶことのすべてが正しいとは限りません。常識だと信じている中に、間違ったことが平然と隠れていることがあります。ちょっと変だなと疑問に思ったら、立ち止まって、“まてよ”と考えてみましょう。学問や実践の中に、あるいは一般の社会生活の中に、まだまだそのような間違った常識が隠れています。これからの世界を背負っていく皆さんにとって、素直な心と批判的精神の両立は大切なことですので、時々は思い出してください。そして、間違いを見つけた時には、勇気をもって正しい方向に改善してください。

最後に、本学は1年後の令和6(2024)年10月に開学50周年を迎えます。これまでに7千人を超える卒業生・修了生が巣立ち、滋賀県、全国、世界で活躍しています。そして、皆さんのこれからの活躍が滋賀医科大学の発展を支え、後輩たちの大きな励みになります。皆さんの前途が希望に満ちた輝かしいものであることを心から祈念して、お祝いの言葉といたします。

令和5年3月10日                 
国立大学法人滋賀医科大学長 上本 伸二