Pcgf5はマウスES細胞において全能性からの脱却を制御する
論文タイトル
Pcgf5 controls the exit from totipotency in mouse embryonic stem cells
掲載誌
Biochemical and Biophysical Research Communications
DOI:10.1016/j.bbrc.2026.154417
執筆者
Satoshi Mashiko, Shinnosuke Honda, Shuntaro Ikeda and Tomoyuki Tsukiyama
(太字は本学の関係者)
論文概要
私たちのからだは、受精卵というたった一つの細胞から始まります。受精卵は胎盤も含めたあらゆる細胞に分化することができる特別な能力「全能性」をもっています。マウスの胚性幹細胞(ES細胞)を培養すると、全体の約1%というごく一部の細胞が、受精直後で全能性を持つ 2 細胞期の胚とよく似た状態(2細胞期様細胞)へと一時的に変化することが知られています。これまでの研究の多くは細胞が全能性の状態に「入る」仕組みに注目しており、細胞が全能性の状態から「抜け出す」仕組みはほとんど解明されていませんでした。
本研究では、細胞が全能性の状態になると光の色が変わる特殊なES細胞を作製し、Pcgf5という遺伝子のはたらきを解析しました。その結果、Pcgf5の量を増やすと、ES細胞は全能性の状態の割合が減り、逆にPcgf5を無くすと、全能性の状態の割合が増えることを発見しました。さらに、細胞を1個ずつ4日間にわたり連続撮影する「タイムラプス撮影」を行い、Pcgf5の量の増減によりES細胞の「全能性の状態にとどまる時間の長さ」そのものが変化することを直接確かめました。
本研究成果は、細胞の全能性を保持するスピードを人工的に調節できる可能性を示しています。将来的には、全能性を持つ細胞を安定して培養・維持する技術の確立や、再生医療の発展に貢献する新たな幹細胞の作製につながることが期待されます。
セルソーター(FACS)で、赤と緑の両方に光る細胞(=全能性に近い状態の細胞)だけを選び出して回収し、その後どれくらいの割合がその状態にとどまり続けるかを24時間追跡した。回収した細胞が今どの状態にあるかも、同じくセルソーターで測定している。Pcgf5を増やした細胞(with Dox)では、増やしていない細胞(without Dox)に比べて24時間後にその状態にとどまる細胞の割合が有意に減少しており、全能性からの脱却が早まっていることが示唆される。
図2と同じ実験を、Pcgf5を無くした細胞(KO)で行った。24時間後もその状態にとどまる細胞の割合が有意に増加しており、全能性からの脱却が遅れていることが示唆される。
光っていない細胞を回収し、光り始めた時点から光り終わりまでの光の強さの移り変わりを定量した。
左:Pcgf5を増やすと、赤・緑どちらの光も通常より早く消える。
→ 全能性の状態にとどまる時間が短くなっている。
右:Pcgf5を無くすと、逆に光が長く持続する。
→ 全能性の状態にとどまる時間が長くなっている。
文責
動物生命科学研究センター 築山 智之